「季節風」掲載書評

written by 越水利江子

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愛のために戦う少年              

『No.6 # 4』
         あさのあつこ 作
     講談社


『No.6 』は# 1〜 # 4の四冊が既刊である。
 かつて季節風にも一部連載された近未来サ
バイバル小説だが、ともかく面白い!
 ことに#1は、エリート育ちの少年紫苑と、
若きゲリラ、ネズミとの出逢いと再会が、鮮
やかな手並みで展開され、一気に物語の渦中
へ引っ張り込まれる。喉元まで迫ってくる恐
怖、人と人の絆、生の意味、君臨する聖都市
No.6への疑惑など、破滅へのプレリュードが
いかんなく盛り込まれ、かつスピーディに読
ませる読ませる(と、ぜひ繰り返したい)。
 罠にはめられNo.6を逃れた紫苑は、西ブロ
ックと呼ばれる貧民街にネズミに匿われ潜む。
頭脳明晰だが甘っちょろくて疑うことを知ら
ない紫苑。獣のように用心深く俊敏で酷薄に
見えるネズミ。二人はぶつかりながらも互い
を理解し始める。だが、紫苑の親友の少女沙
布がNo.6の矯正施設にさらわれ、さらに聖都
市に恐怖の感染が拡がる。二人は沙布を救う
ため、ついに矯正施設へ潜入するのだった(#2
〜 #4)。…と、ここまで読むと、印象は#1と
やや違ってくる。#1ではスピーディなSFア
クションと思えたものが、四刊まで読み通す
と、物語は紫苑とネズミの奇妙な共同生活の
軋轢や嘆息、いつしか生まれる愛とも呼べる
感情への戸惑いで彩られる。生と死、飽食と
飢餓、平和と戦いなど解決の糸口さえ見出せ
ない重いテーマが二人にのしかかり、物語は
彼らの内面へ内面へと向かっていくのだ。
 それについて作者はこう記す。「なぜ闘う
のか、なぜ愛するのか、なぜ憎むのか、なぜ
殺すのか…彼らの心に添うて、彼らの心と共
に揺れて、考え悩み嘆息を繰り返しているう
ちに枚数がつきました。(中略)読者の方の
非難叱責については今回一言の言い訳もでき
ないと覚悟しています」と。確信犯である。
 あさのあつことは、こういう作家だ。
 辣腕なくせに繊細で真摯で、さらに強情きわ
まりない。飽食の日本からこの物語を眺める
と、この国がまぎれもなく聖都市No.6に見え
てくる。「見ろ、目を逸らすな!」というネ
ズミの声が胸に響いてくる。彼らがどう闘うの
か、最後まで確かめたい。